眠っているあいだにみたものだが

まずわたしの心から尊敬する方が現れる
少し頭を下げて会釈をし、どうもーーですといった
どうやらわたしと食事の約束をしていたらしい

ぴしっとハリのあるスーツを着こなす細身の背の高い方だ
横顔がとても神経質そうで、強張っているようにみえた
いま思うと緊張していたのかもしれない
彼は鞄を片手に下げ、もう片方の手も下げたまま「では行こうか」という
わたしは確かに黒のワンピースを着ていた
尊敬する方を目の前にして半ば尻込みしていた
だが決して悟られてはなるまいと表には出さなかった

ついたのは竹の格子を壁に沿わせた和風の店だった
ここはあまり記憶がない

純和風の内装に反して、黒の蝶ネクタイ+木こりスタイルの店員が「お待ちしておりました」とうやうやしく頭をさげる
そして、「いつもの鉄の部屋とーーの部屋どちらにいたしますか」といった
彼は「鉄の部屋で」と返した
彼はここに足繁く通ってているのだと感じた
そこではじめて下げていた片手を上げ、「こちらだよ」といった
わたしは彼の後をついていった

手が長い、足も長い
しかし見上げて苦痛なほど背が高いわけではない
ついたのは鉄の部屋と呼ばれるには些か鉄が少ない部屋であった
ごく普通の白壁に、仕切りとして、鉄でできた×が、もしくは床に鉄の棒を一文字にはめているくらいだった
敷居も少し高いが、ルノアールのような雰囲気であったように思う。
客は私たち以外いなかった
とにかく静かだったが、胎内の音のように心地よいものだった

彼は下座に座った
テーブルが1つ、椅子は鏡合わせで4つ
隣に鞄を置こうとするのを止め「すみません、面と向かって話す勇気がございませんので、お隣よろしいですか」といった
彼はそれをすこしばかり不思議そうに(彼としてはおくびにもだしていないつもりだったようだが)了承した


ここで目が覚めてしまった
夢だとわかっていたが続けたかった
何度も眠ろうとしたが、見たのは隣に座るーーさんと、料理と、おだやかな時間だけだった